10月25日より開催中の第30回東京国際映画祭。アニメーション特集「映画監督 原恵一の世界」の第一弾『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』が10月26日に上映されました。
上映後には原恵一監督によるトークショーも開催。「クレヨンしんちゃん」の数々の映画のプロデューサーや、『クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』の脚本、『天元突破グレンラガン』のシリーズ構成などもつとめた劇作家・脚本家の中島かずきさんも登壇しました。
原監督の並々ならぬこだわりが語られた今回のトークショー。お二人の言葉を借りながら、『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』(以下:「戦国大合戦」)が名作として語り継がれることとなった理由を紹介していきます。
①原恵一監督と中島かずきさんの出会い

(原恵一監督)
まず原恵一監督と中島かずきさんの出会いについて――。
当時、「クレヨンしんちゃん」の発行元・双葉社で編集者として働きながら、「劇団☆新感線」の作家としても活躍していた中島さん。中島さんは原恵一監督の出世作で「戦国大合戦」の前作に当たる『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』(以下:「オトナ帝国」)を観て、「こんな傑作ができたんだ!」と度肝を抜かれたそうです。
その後、中島さんの熱い要望によって、「劇団☆新感線」のパンフレットで2人は対談を果たします。それが2人の最初の出会いです。のちに映画『シン・ゴジラ』で監督&特技監督を務めることになる樋口真嗣さんもこの時期、中島さんの紹介で原監督と出会いました。それ以降三人は飲み友達のような関係になったそうです。
2002年、中島さんは「クレヨンしんちゃん映画」の10作目を記念して作られた『クレヨンしんちゃん映画大全』を企画・出版。インタビューや寄稿文のほか、絵コンテや美術設定もたっぷり掲載された豪華版でした。しかし「戦国大合戦」はまだ制作中だったため、完成フィルムを観ていない状態だったそうです。原監督が「戦国大合戦」でクレヨンしんちゃん映画の監督が最後だと知っていれば、完成を待ってから映画大全を作ったのにと、中島さんは悔しそうに語っていました。

(劇作家・脚本家:中島かずきさん)
②「正確さ」へのこだわり
時代考証の正確さも話題に。合戦を始める時に礫(つぶて)から始める描写や、敵国の兵糧を少しでも減らすために行われる「刈り働き」のシーンなど、実写映画ではほとんど再現されない描写も「戦国大合戦」では描かれ、中島さんは当時大変驚いたそうです。実写映画では予算の都合で再現不可能な描写も多いため、アニメだからこそできる表現だとも言えます。
原監督は黒澤明監督の『七人の侍』について、「本当のリアリズムで時代劇をつくりたい」という黒澤監督の想いから生まれたものであり、それまでの日本映画史が始まって以来続いた時代劇の原型を壊した作品だと評しました。
しかしその上で、時代考証的には嘘も多いと言います。例えば当時の武器は刀ではなく槍。その点「戦国大合戦」では、前線で戦う兵たちのほとんどが槍を手にしています。「僕は初めて見たぐらいの衝撃でしたね」と中島さんは語りました。

武士たちは長柄という5mもある槍を振り回して戦います。「雑兵と呼ばれる足軽(一番下っ端の兵士)たちが直接ぶつかる。接近戦が怖いので、少しでも距離をとって戦うために槍が長くなった」と原監督は話します。
槍は木なので、長柄ほどの長さだと撓(しな)ります。実写で“演じる”にはコントロールがとても難しく、撮影では怪我人が出る可能性も高まります。長柄による戦場シーンについても、アニメだからこそ再現できたシーンなのかもしません。
とは言え原監督も、「刀の立ち回りの方が絶対かっこいい」「リアリズムが正解ではない」とも言います。原監督自身、“黒澤明の美学”によって作られた『七人の侍』から大きな影響を受けているようです。
では続いて、「青空侍」と「オトナ帝国症候群」、そして作品の大前提となる三つのキーワードについて紹介します。
"「青空侍」と「オトナ帝国症候群」、そして三つのキーワード"
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