■『DEVILMAN crybaby』(デビルマン クライベイビー)
▶▶①初めて完結まで描いた『デビルマン』
1972~1973年に週刊少年マガジンで連載された、永井豪さんによる伝説的コミック『デビルマン』。人間の心を持ったデビルマンが、人類滅亡をもくろむデーモンに立ち向かっていく物語です。同時期にTVアニメも放送され人気を博しましたが、原作にある壮大な展開には繋がっていきません。設定は同一であるものの、妖獣との対決を1話完結で描いています。
その後、原作を忠実に再現したOVA版、『デビルマン 誕生編』(1987年)『デビルマン 妖鳥死麗濡編』(1990年)が発売されました。ファンからの評価も高いハイクオリティーな作品に仕上がっていたのですが、完結篇の「アーマゲドン編」が制作されず、残念ながら未完に終わっています。
そして今回、湯浅政明監督による『Devilman Crybaby』は、“初めて原作の完結まで描いたアニメ作品”として話題になりました。これまで誰も実現できなかった、黙示録的な壮大な展開に注目です。

出典:©Go Nagai-Devilman Crybaby Project 『DEVILMAN crybaby』公式 Netflix(@DevilmanCryBaby)Twitterより
▶▶②ネット配信だからできる映像表現
『Devilman Crybaby』の大きな魅力の一つが、Netflixというネット配信アニメだからこそできる、原作を反映したセクシャルでバイオレンスな場面描写。もし本作が様々な規制のあるテレビアニメ放送で、これらのシーンがもっとソフトな表現に落ち着いてしまっていたとしたら、原作にある圧倒的な恐怖の再現からは遠く離れていたはずです。
ただし、これらの過激なシーンは衝撃的だったものの、見ていられないほど生々しい映像だったわけではありません。それはひとえに、湯浅監督率いる「サイエンスSARU」の、デフォルメされたポップな作風のおかげでしょう。FLASHアニメーションを使った独特な動きや描写で、これらのセクシャルでバイオレンスな場面も、幻想的で美しい映像に仕上がりました。
サイエンスSARUの公式Twitterでは制作日記も更新していたので、気になる方はぜひチェックしてみてください。
こちらもOPから。
— サイエンスSARU (@sciencesaru) 2018年1月19日
かなり細かくパーツ分けされています。https://t.co/Mrl0cIVWCv #DEVILMAN #DEVILMANcrybaby #デビルマン pic.twitter.com/0la5gu8eXj
出典:©Go Nagai-Devilman Crybaby Project サイエンスSARU(@sciencesaru)Twitterより
〇湯浅政明監督って?
アニメ制作会社「サイエンスSARU」の代表。日本を代表するアニメーション監督。『マインド・ゲーム』(2004年)で国内外から高い評価を得て以降、『四畳半神話大系』『ピンポン THE ANIMATION』などのTVアニメ作品でも話題に。2017年には劇場アニメ『夜は短し歩けよ乙女』『夜明け告げるルーのうた』が立て続けに公開され、広くその名を世間に知らしめました。
▶▶③現代風アレンジで若い世代にも響く
原作の暗い部分を踏襲しながら、初めて完結までを描いた『Devilman Crybaby』。しかし、原作をそのままなぞっているわけではありません。原作は1970年代の作品であり、当時とは人も生活も大きく変わっています。「Crybaby」では、様々な要素を現代風にアレンジし、それを効果的に物語へと昇華させていました。
例えば、原作で主人公たちに絡んでくる学ランの不良少年たちも、「Crybaby」ではラッパーに変更されています。ラップの情趣に酔える若い世代にとっては、声優として参加したプロのラッパーたちのリリックから、共感にしろ反発にしろ、何かしら深く胸を打つものがあったはずです。
さらに象徴的なのは、インターネットやスマホの登場。現代では人と人との関係性を語る上で欠かせないSNSも、「Crybaby」の重要な要素となっています。SNSでの勇気ある発信と、同時に拡散される悪意やヘイトは、今の時代にはあまりにリアルすぎる描写でした。人間の心に住む悪魔の存在に、ネット世代の人間であれば誰もが恐怖することでしょう。
これらの工夫によって、古くからのファンだけではなく、現代の若者の感性にも強く響く新しい「デビルマン」が完成しました。

出典:©Go Nagai-Devilman Crybaby Project 『DEVILMAN crybaby』公式 Netflix(@DevilmanCryBaby)Twitterより
▶▶④“悪魔のような”人間の心
デビルマンを直訳すると「悪魔男」。全く知らない人からすると、「敵なの?味方なの?」という疑問すら出てくるかもしれません。悪魔の体でありながら、人間の心を持ち続けるデビルマン。もちろん彼は、人類滅亡をもくろむデーモンから人間を守ろうとする、正真正銘の正義の味方です。
では、デビルマンの敵は一貫してデーモンなのかというと、それがまた複雑な問題。この物語で一番厄介な存在となるのが、ほかでもない「人間」だからです。
人間は一度不安の種を植えつけられると、たちまち疑心暗鬼に陥ります。なぜなら人間は、結局のところ、とても心の弱い生き物だからです。悪魔以上に悪魔の心を持ってしまった人間たちは、お互いを信じることができず、みずから滅亡への道を歩むことになります。
「一番怖いのは人間」とはよく言われますが、本作でもまさに、人間が最も非情な存在として、デビルマンの前に立ちふさがります。“神回”の呼び声高い「9話」(全10話)でも、心が弱い人間たちの悪魔のような本性が、怖ろしいほどリアルに描かれていました。
▶▶⑤豪華声優による迫真の演技
声を演じる声優キャストも豪華です。デビルマンに変身する不動明を内山昂輝さん、明の親友である飛鳥了を村瀬歩さん、明の幼馴染である牧村美樹を潘めぐみさんが担当しました。まず最も注目して欲しいのは、内山さんの渾身の“叫び”。明の心の葛藤や、デビルマンとしての欲求不満を表現するのに、やはり言葉だけでは事足りません。内山さんの壮絶な叫びによって、デビルマンの苦しみや悲しみが理屈なしに伝わってきます。
村瀬歩さんのラストの演技にも胸打たれました。明とは対照的で理知的な人物である飛鳥了を、村瀬さん得意の英語を駆使しながら、見事に演じ切っています。
不穏な雰囲気が漂う「デビルマン」の世界で、安心感のある頼もしいヒロイン「牧村美樹」の存在をたしかに感じさせてくれた潘めぐみさん。それゆえに、やがて訪れる悲劇があまりに残酷で、打ちのめされる人も多いはずです。

出典:©Go Nagai-Devilman Crybaby Project 『DEVILMAN crybaby』公式 Netflix(@DevilmanCryBaby)Twitterより
『Devilman Crybaby』のダークな雰囲気や、独特な絵のタッチには、得手不得手があるかもしれません。それでも、デビルマンの理屈を超えた叫びのメッセージに、何かしら心に残るものがあるはず。ぜひ見て欲しいおすすめの作品です。
では続いて、2018年3月2日(金)より配信がスタートする『B:The Beginning』を紹介。Produxtion I.Gが送るダークヒーロー×クライムサスペンス作品となっています。
"ダークヒーロー×クライムサスペンス!『B:The Beginning』"
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