天上から降る甘いまどろみ 田代万里生
出典:©田代万里生オフィシャルブログ「MARIO CAPRICCIO」『終演!シューベルト×2 東京公演(2018/07/07)』より
2人目は、田代万里生さん!
イタリアの名テノール歌手マリオ=デル・モナコにちなんでつけられたその名前にぴったりな、とっても美しい歌声の持ち主です!
万里生さんの声をひとことで表すと、“上品”。どんな内容の歌詞を歌っても、心の中にすっと入ってきます。
専門的なお話になってしまうのですが、テノールとひとくちにいっても、声の高さや重さ、表現の方法によっていくつかのジャンルに分けられるんです。万里生さんの持っている声はリリコ・レッジェーロ・テノール。リリコは抒情的、レッジェーロは軽いという意味なので、簡単にいうとテノールの中で最もふわふわとした甘い声だといえます。
出典:©HoriPro Inc. 「Il mare dei suoni 」田代万里生 KOKIAより
筆者はミュージカルを観ていると、感覚的に「この俳優さんはこのあたりまでの高さを出せるんだろうなあ」ということがなんとなくわかるのですが、万里生さんは何度聴いても予想の遥か上の音を当ててきます。
万里生さんの声はよく「天使の歌声」と称されますが、その声を活かし、日本最高峰の芸術大学と言われている東京芸術大学の声楽科に通っていた際には、“夢の国”東京ディズニーシーの中にあるホテル「ミラコスタ」で聖歌隊として活動していたこともありました。
また、歌声だけでなく話し声も品があり、物腰の柔らかさと相まっていつまでも聴いていたくなります。
出典:©HoriPro Inc. 『マリー・アントワネット』コメント映像/田代万里生 より
公演後のトークショーやイベントなどでの上品な話し方に癒されたという経験をした方も多いのではないでしょうか?
そして万里生さんの声の魅力は上品さだけではありません。
2000年から上演を繰り返しているミュージカル『エリザベート』では、万里生さんは2012年にオーストリアの皇太子ルドルフを、2015年と2016年にオーストリアの皇帝フランツ・ヨーゼフを演じています。皇帝という高貴な役であるため声の上品さを最大限に活かしているのですが、この作品で最も注目していただきたいのは2幕の終盤にある『悪夢』というシーン。
これはエリザベートのことが好きなトート閣下に悪夢の中でうなされる場面で、万里生さんのフランツは息が止まりそうなくらいの迫力なんです。そのシーンまでのフランツはそこまで熱くなることはないのですが、この『悪夢』では一気に感情が爆発します。それまで落ち着いて話していたからこそ、より怖さが感じられるんです。
出典:©Toho Co., Ltd. 『エリザベート』2016PV【舞台映像Ver.】より
また、万里生さんの声による演技については『スリルミー』抜きでは語れません。
包容力のある声を活かし、主人公の友人役といった誰かを支える役や誰か一人に固執することのない中立的な役をやる印象が強いのですが、この作品では違いました。万里生さんが演じたのは「彼」と呼ばれるひとりの男に固執する19歳の「私」という青年の役です。
誰か一人に依存していることで生まれる“狂気”を強く感じさせる声になっており、その怖さは何かひとこと話すだけで鳥肌が立ってしまうほどでした。
あたたかいバリトンに包まれたい!上原理生
出典:©ORCHARD公式Twitter(@orchard_info)より
3人目は上原理生さん!
どーんとダイレクトにお腹に響くような低く安定感のある声は人を駆り立て、包み込み、共に戦おうと語りかけてきます。
理生さんのバリトンボイスの特徴は、強さだけではなくあたたかみを感じることができるところです!リーダーを演じることが多いのですが、同じリーダーと呼ばれる役どころであっても、歌い方が若干異なっています。
全ての人の前に立つ者、改心したからこそここに立っているという気持ちを持っている者、決していちばん前にいるわけではないが仲間を引率している者。この3役は似ているようで全く違います。理生さんはその微妙な違いを表現することができるのです。
2017年で日本初演から30周年を迎えたミュージカル『レ・ミゼラブル』では学生団体のリーダーであるアンジョルラスを演じました。
出典:©Toho Co., Ltd. 『Les Misérables』 JAPAN 2017 Official Trailerより
学生という立場でできることは少ないにもかかわらず、バリケードを築いたり戦ったりと市民のために立ち上がります。アンジョルラスという役どころというのは、どこか孤独さが漂っていると筆者は感じてしまうんです。もちろん常に周りの学生と協力しあっているのですが、誰かと馴れ合ったり特定の人を贔屓したりすることなく、全体を俯瞰している存在であるといえます。
そのため、誰よりも力強くどっしりと歌うことにより、ほかの学生はアンジョルラスのようには人を引っ張っていけないのだろうなという絶対的なカリスマ性を感じさせることができているのだと思えました。
『ミス・サイゴン』で演じたジョンという役も人を引っ張る立場の役ではありますが、アンジョルラスとは違ったリーダー像です。
出典:©Toho Co., Ltd. 『Miss Saigon』JAPAN2016 Official Trailerより
ジョンは1幕では兵士ですが、2幕では自分が従事したベトナム戦争によって生まれてしまったブイドイという孤児を助ける活動家になるのです。はじめからリーダーだったのではなく、自分たちの罪に気づき、それを悔い改めようと人々を引っ張っているという点がアンジョルラスとは異なります。
反省したからこそそこに立っている、という責任感を表すために、「ブイドイ」という曲は苦しさと力強さが混ざったような声で歌っています。
『1789』は民衆がフランス革命を起こすために立ち上がるミュージカルで、理生さんは革命家のダントンを演じました。
出典:©Toho Co., Ltd. 『1789 -バスティーユの恋人たち-』2018舞台映像版PVより
この作品には民衆を導く立ち位置の革命家が他にも出てくるので、ダントンがトップというわけではないんです。民衆のことも共に引っ張っていく立場の革命家のこともしっかりと考えているため、とても仲間意識の強い役だといえます。そのため、歌声や話し声の中に力強さだけでなく優しさを感じられるんです。
このように、引っ張っていく立場の役でもいろんな種類があるのですが、理生さんは持ち前の力強くもあたたかい声を微妙に変化させることで、それぞれの役を演じ分けることができています。
大きく声のトーンを変えることはせずとも、与える印象を変えられるという強みを活かして、この先どんな役に挑戦するのかとっても楽しみな俳優です。
声の魅力は無限大!
今回は、私の耳に強く残っている声を持っている俳優を3人、ご紹介しました!
歌い方が好き、声そのものが好き、といった具合に一口に「声が好き!」といっても様々な好きの形があります。
みなさんもぜひ劇場で、自分にとって魅力的だと感じる声の持ち主に出会ってみてくださいね!
著者:くるる